あらすじ
ローマを旅行中、落雷のエネルギーによって「時間の幹を滑り落ちた」アメリカ人学者マーチン。たどり着いた先はローマ帝国末期のローマ。
もともと堪能なラテン語とよく切れる頭を駆使して、まず考えるのは生き延びること。「こうなると判っていれば百科事典を持ってきたのに」と思いつつ、がんばるマルティヌス君はまず蒸留酒つくりに手をつけてちょいとばかり財産を作る。
そしてこの時代に思いを馳せれば、何のことは無い中世の闇が目前に迫る危うい時代。蛮族襲来・帝国崩壊に引き続く中世の闇が落ちてこないようにと、マルティヌス君(マーチンのラテン語読み)はまず活版印刷を「発明」。ばんばん本を刷って知識を広く普及させれば、多少の混乱があっても知識は残り、闇に対抗できるに違いないという、いわば知識の人海戦術を展開。
そしてそんな中、成り行きでダメなローマ皇帝を助け、帝国重要人物にのし上がり……
と、こう書くと非常に真っ当なストーリーに思えるのが不思議なところ。
言葉に苦労せず、舌先が巧みで博学な人間が、研究対象であった時代に飛ばされるのですから獅子奮迅の活躍が期待できる……と、他の作家なら書いたことでしょう。
しかし、これを書いたのはアンチヒーローを描かせたら右に出る者のいなかった、あのL・スプレイグ・ディ・キャンプでありますからして、このマルティヌス君は天然ボケ風味ギャグキャラクターに仕上がっているわけです。バカ一外しも、笑いとともにやってのけてくれています。
アンチヒーロー獅子奮迅、こけつまろびつ大団円、という話がお好きな方にはぜひともお勧めしたい一冊です。
ただし日本人にはなじみの薄い時代と場所を扱っていますから、モンタネッリの「ローマの歴史」を読んでおくと、面白さが倍増すると思います。
このモンタネッリの本はローマ史を扱うノンフィクションですが、歴史の喜劇性を前面に打ち出している良書です。
HAKU >これのいいところは、主人公が何かしようとするたびにいちいち失敗するところじゃないのかな。
NAKA >蒸留器を作ろうとしたら銅管の溶接で失敗するとか?
HAKU >印刷しようと思ったら、いきなり羊皮紙が品薄になってみたりとか。
NAKA >たしかに、そんな小粒なネタが美味しいストーリーでもあるね。
作者 | L・スプレイグ・ディ・キャンプ |
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翻訳 | |
発行 | 早川書房(ハヤカワ文庫SF ) |
発行年 | 年(原作:年) |
ジャンル | SF(時間もの) |
入手可能性 | 古書店で探してください。 |