平行時空冒険譚:確率都市 ~The Axis Hoppers~

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序章:夢(1)

 あたしが見た夢のことを話して、笑わなかったのはたった一人だけだった。

 「ずいぶんリアルな夢ね~」
 そう言われても、こたつでミカン食べながら話すと、あんまりリアルな気はしない。
 「それで、その人たちが着てた軍服って、どんなのだった?」
 と、妙な所に興味を示したのは茜だった。
 「なんか学生服っぽい、詰め襟の合わせ目のあたりだけが色違いの布になっているやつ」
 「八甲田山って映画で、高倉健が着てるようなの?」 
 そういえば茜って、ああいう渋いおじさまタイプの俳優が好きなんだった。高倉健とか渡辺謙とか。自分の年(まだ十七だし)考えなよ、とみんなで言ってるけど、言っても無駄だってこともみんな知ってる。
 「そうそう、それそれ」
 もちろん、あたしも茜と一緒にビデオを見た事くらいあるから、その映画は知ってる。

 夢の中でやってたことはずいぶん、八甲田山と違ってた。

 なにしろ暑い所で、地面にやたらと掘られた堀みたいな所を走り回ってたんだから。変な溝の中でないときは、乾いた土と熱帯っぽい木ばっかり。
 おまけに、一緒にいた人たちは、重そうな機械を引きずってた。

 ……冷静に考えると、すっごく奇妙な夢。

 「でも、覚める直前にその人たち死んじゃうシーンが出て来てね~」
 「どんなんだったの?」
 「一人なんか、腕とか飛んじゃってた」
 「うわ、グロ」
 「でしょ~?目の前でなんていうか、いろんなもんと一緒に吹き飛んでて。でもなんか、危ないもの降って来るの、止まなくって」
 ほんとに怖くって、自分が夢の中で大泣きしてたことは、言わなかった。恥ずかしいし。
 「……で、最後にさ、こりゃもう助からないかな、って重傷の中尉さんがあたしの事かばって突き飛ばしてくれて、どっかに落ちるような感じがしたとこで目が覚めたってわけ」

 やっぱり、話せば話すほど、変。なんだったんだろ、あれ。

 「ねぇねぇ、その中尉さんって誰に似てた?渡部君とか」
 唐突に聞いたのは、友里だった。
 「なんで渡部が出てくんのよ?」
 慌てて言ったら、声が裏返ってた。
 みんなが笑い、あたしは言い返せなくてもう一個ミカンをとって剥き始めた。
 「まーまー、亜紀の好みは判ってるから。で、白状しなさいよ。名前が渡部とかいったんじゃないの?」
 「王子様願望あったんだ、亜紀」
 「いざって時に助けてくれる白馬の王子様が、軍服?けっこうディープな趣味してたのね」
 「ちょっとぉ、勝手に決めないでよ!」
 「んっふっふ」
 あたしが喚いたら、典子ががしっとスリーパー・ホールドを決めてきた。
 「さーさー、おねーさんに白状してごらん」
 「なにをどう白状しろってゆーわけ!?」

 どーでもいいけど、腕が太くて力もあるんだから、ちょっとは手加減してよね。典子。

 「そーねー、手始めにさ、その何かと助けてくれた中尉さんって人の顔よ。誰かに似てなかった?」
 「なんでそんな事が知りたいのよ」
 「だってさ、夢に出て来るって事はあんたのヒソカな願望って事でしょー」
 「なにそれ」
 「あ、そう言うよね。抑圧された願望が夢に現れるってさ」
 茜までそんな事言うし。
 「ってことはやっぱり、渡部君だったわけね」
 それはないでしょ、友里。
 それに実際のところ、あたしにはすごく残念な事に、その中尉さんは渡部君とは似ても似つかない人だった。
 説明するなら平凡の一言で終わっちゃうような顔で、体格もごく普通。そういうと、茜以外の三人ががっかりした顔になった。
 「なーんだ。つまんないの」
 「でもさ、最後に死ぬ役なら、渡部君じゃなくて良かったじゃない」
 それは言える。
 「で、名前は?」
 「それがね~。御舘っていってた」
 あたしを含めて全員が、茜の方を見た。
 茜の名字は、御舘と言うのだ。茜がびっくりした顔になり、すぐに吹き出した。
 「なんでうちの名字なのよ?……で、名前の方は聞いた?」
 「うん。雅之っていってたかな」
 「……あのさ、亜紀。それってうちの兄貴と同じ名前なんだけど」
 「え、うそぉ!」
 あたしは思わず叫び、そのあとで散々からかわれる羽目になった。


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